暗闇のレストラン
以前から一度行ってみたいと思っていた「暗闇のレストラン」なるものに、夫と二人で行ってきました。
このレストランは”Dans le Noir”という名前で、フランス語で意訳すると「暗闇の中」を意味します。
最初にオープンしたパリのレストランのオーナーは目が見えなかったので、「目が見えない中で人々が食事をしたらどうなるか」という考えで友人を招いてのディナーを企画した所、これが非常に好評で、最終的にはレストラン開店に至ったとのことです。
パリのレストランがオープンしたのが15年前。その後フランスの各地にレストランがオープンし、国外にもネットワークが広がり、現在では8店舗になりました。以下が店舗のある都市です。
フランス:パリ、ナント、ニース
イギリス:ロンドン
スペイン:マドリッド、バルセロナ
ロシア:サンクトペテルスブルグ
ニュージーランド:オークランド
このレストランについての記事を目にした時、そのコンセプトにまず驚きました。真っ暗闇の中で料理を味わうことにより他の感覚が研ぎ澄まされること、携帯や時計といった「雑音」から解放されて料理や会話に集中できること、そして、暗闇の中で働くウェイター/ウェイトレスは全員盲目であること。料理の種類が豊富で美味しいということも聞いていたので、いつか行きたいと思っていました。
その「いつか」が、木曜日に訪れました。
私たちは8時半スタートの最初のグループで予約をしました。他に4組のカップルが同じ時間に予約をしており、到着した順にレストランの人から簡単な説明を受けました。この時に、①アレルギーのある食物、②どうしても食べられない物の二点について聞かれるので、間違ってとんでもないものを口にしてしまった・・・ということにはなりません。
全員準備ができた所で、皆トイレに行き、荷物を全てロッカーに入れるよう勧められました。食事中に暗闇の中でトイレに行きたくなって席を立つのはなかなか大変ですし、食べ物が見えない場所では手を使って食べる必要も出てくるので、手洗いは必須です。また、何か物を落としたら最後、暗闇の中では見つけられません。携帯やアクセサリー等もロッカー行きとなりました。(ちなみに、夫はメガネも外してしまいました。どうせ何も見えないですし・・・。)
メニューを選んだ後、いよいよディナー会場へ移動です。私たちの担当になったのは、ジョルディ(Jordi)というウェイターです。彼に指示された通り、皆で一列に並び、前の人の左肩を左手で触れる形で部屋に入っていきます。三重のビロードの重いカーテンをくぐりぬけると、そこは正に真っ暗闇の世界。部屋に入った後は、ウェイターから手を引かれるようにして一人一人席に着きます。
席に着いてからは、周りの人と会話をしながら、出された料理を食べて行きます。それぞれ、一皿に3、4品の料理が盛り付けられており、場合によっては食べる順番も指示されます。目が見えないと他の感覚が研ぎ澄まされるというのはその通りだと思いますが、目から入る情報がどれだけ重要かということも実感します。例えば、お魚とお肉を間違えてしまったり、野菜のクリームスープの野菜が何か分からなかったり、豚肉と鴨肉の判別がつかなかったり、中には白ワインと赤ワインを間違える人もいました。(間違えやすいワインを敢えて選んでいたということを後で聞きました・笑)
料理は思った以上にバラエティに富んでいました。西洋風なものもあれば、アジアや中東のテイストを含めた料理もあり、普通のスペイン人が当てるのは難しいだろうと思うものもいくつかありました。また、食べ物が見えないので、フォークを使ってもうまく刺すことができず、フォークと手を使って料理を食べました。(誰にも見られていなくて良かった・・・。)中には、暗闇の中で洋服を料理で汚す人もいるらしいですが、私たちは幸いアクシデントにもあわず、大満足で食事を終えました。
「暗闇のレストラン」、素晴らしい点はいくつもあると思いますが、このレストランを「レストラン以上のもの」にしているのは以下の点だと思いました。
①日常生活では盲目の人たちが「ハンディキャップを背負っている」と考えがちですが、暗闇の中では彼らの動きや機敏な対応に感動し、自分が暗闇では逆にハンディキャップを背負っていることを実感します。そういう意味で、彼らに対する深い尊敬の念が湧くと同時に、自分自身がもっと謙虚になることを学べます。
②通常、レストランのテーブルは離れてセットされますが、ここでは予約時間毎にくっついた形でセットされています。暗闇で見えないからそうするのか分かりませんが、最初から「この料理は何が入っているのかな?」「これ、どうやって食べている?」と言った会話が始まり、他の参加者達との交流があるのも面白いです。私達は、料理も会話も思いっきり楽しむことができました。レストランで近くのテーブルの人たちと交流があるという「人間らしい部分」も、この場所の魅力です。
③目が見えないことで、仕事で困難を感じる人達はまだまだ沢山います。それは、企業等がそういう人達に対し、「普通の人より使いにくい」「サポート体制がないと採用しにくい」という態度で接しているからだと思います。今回、このレストランで働いている人達から、「この仕事にめぐりあえた喜びを感じている。自分のハンデが強みに変わることで、人生が大きく変わった。」「ここの仕事に大きなやりがいを感じ、食材や飲み物、サービスについて自発的に学び、アイディアを提供してくれる素晴らしい人材に出会えた。」と言ったポジティブなコメントを沢山聞きました。目が見えない人達の人生観を変える程の仕事。そのような機会を提供しているレストランの素晴らしさを実感しました。
このレストランは、3ヶ月に一度、メニューを変えるそうです。クリスマスはどんなメニューを準備しているのか楽しみです。
ご興味のある方は、是非マドリッドにお越しの際に試してみて下さい。英語対応も可能です。
Restaurante Dans le Noir
Plaza del Biombo, 5
日本にも是非オープンしてほしいと思うレストランです。
突然のコンタクト失礼致します。
HARUKI様はマドリッド在住でいらっしゃいますか?
私は日本在住なのですが、マドリッドに親子留学をしたいと考えております。
ただ、知人が一人もおりません。
そこで、マドリッドで比較的安心して住める地域を探しています(母と9歳の娘の2人で住みます)。
もしHARUKI様がご存じでしたら、おおよその値段等お教えいただけませんでしょうか?
お仕事をされていてお忙しいでしょうから心苦しいのですが、お返事いただければ幸いです。
何卒よろしくお願い致します。