Haruki's way

〜スペイン・この不可思議な国〜

Isabel Allende

Retrato en Sepia

Retrato en Sepia

先週チリの作家イサベル・アジェンデ (Isabel Allende)の小説 “Retrato en Sepia”を読み終えました。

日本にいた頃は、日本語か英語の本を読むことが多く、スペイン語圏(ラテン・アメリカを含む)の作家の本は日本語でさえほとんど読んだことがありませんでした。ですが、スペインに来てからは、スペイン文化のみならず、言語の障壁がないラテン・アメリカの文化もどんどん入ってくるようになりました。歌、俳優、文学、ニュース・・・数え上げたら切りがありません。作家イサベル・アジェンデもそのうちの一人です。

イサベル・アジェンデ(地域の発音によっては、アイェンデ、アリェンデともなりますが、日本では「アジェンデ」で統一しているようです。)は、父が外交官、父の従兄弟のSalvador Allendeが後にチリの大統領になるという、所謂「エリート一家」に生まれます。しかし、チリでジャーナリストとして活動した後、1973年にチリのクーデターで大統領の叔父が軍部に殺された為(自殺という説もあります)、その後身の危険を感じてベネズエラに亡命します。

この1973年のチリのクーデターについては、Salvador Allendeが「選挙」で民主的に選ばれた「社会主義政権」だったことに危機を感じた米国が、経済封鎖を行って意図的にチリの経済を混乱させ、軍部のピノチェトを支持してクーデターを誘因したことでも知られています。この辺りも、ラテン・アメリカの歴史を知ると面白いです。

その後、彼女は、チリの厳しい現実や歴史に目を向けつつ、そこにおとぎ話のような不思議な要素を加えた小説を出版し、多くの賞を受賞。現実をありのままに受け止める視点、厳しいことも敢えて緻密に描写し、人間の苦悩を淡々と描き出しながら、そこには一種独特の流れるような美しさが存在します。現在では、ラテン・アメリカ文学を代表する作家として知られています。

HPより。

HPより。

彼女の作品で特に有名なのは、”The House of the Spirits (La casa de los espíritus, 邦訳「精霊たちの家」)”, “The Infinite Plan (El plan infinito, 邦訳「無限計画」)”, “Paula” (邦訳「パウラ、水泡なすもろき命」), “Daughter of Fortune (Hija de la fortuna, 邦訳「天使の運命」)”でしょうか。

今回私が読んだ本 “Retrato en Sepia (日本語では「セピア色のポートレート」でしょうか)はまだ邦訳は出ていないようですが、本当に美しい物語でした。全体として3部に分かれており、一人の女性が自分の過去を語る形で始まります。読んでいるだけで当時の風景が目に浮かぶようですし、その頃いかに世界が大きく、異国が遠いものであったかを感じさせる物語です。

時代は19世紀後半、チリからカリフォルニアに移り住んだ家族の生活、そこでの人間関係。中国人を父に、イギリス系チリ人を母に持つ美しい女性と、その女性を裏切った男性との間に生まれた子供。その子供がこの本の主人公です。その子供が成長してからも悪夢に悩まされ、その悪夢を分析しつつ、過去を振り返って足りないパズルのピースを埋めていくうちに、全ての話がつながる・・・といったストーリーです。19世紀末に起こったチリとペルーの間の戦争、カリフォルニアの中国人たちの生活、チリの内戦、ヨーロッパの華やかな社交界、チリの自然・・・そういったものが非常に精緻に描かれていて、そこに人の裏切りや苦しみ、優しさといったものが加わり、深みのある作品に仕上がっています。

これが和訳されたら是非お薦めしたいと思いますが、この作家に興味がある方は、まずその他の本を是非読んでみてください。「パウラ」は自分の娘が病気になり、亡くなるまでのやり取りや心の葛藤を映し出しています。読むのは苦しいですが、これもとても美しい話だと思います。

スペインから遠くて近い国チリに思いを馳せつつ・・・。

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