Haruki's way

〜スペイン・この不可思議な国〜

プラド美術館とJoaquin Sorolla特別展

プラド美術館近くの広場の様子。噴水の水しぶきが奇麗です。

プラド美術館近くの広場の様子。噴水の水しぶきが奇麗です。

最近よくプラド美術館周辺をぶらぶら歩いています。以前住んでいた家からは徒歩5分だったプラド美術館、今は多少遠くなったとは言え、30分も歩けば到着する距離。この通り道にある噴水や木々の美しさ、アトーチャ駅周辺の広々としたスペースに降り注ぐ夏の陽射し、通りに並ぶ古本屋のブース、どれも見ていて楽しくなってきます。

さて、先月プラド美術館の友の会会員になりました。(友の会は”Fundación Amigos del Museo del Prado”と呼ばれます。)今日は、美術館好きな人にはとてもお勧めのこの制度をご紹介。この制度は芸術を愛する人たちにさらに芸術と親しむ機会を設け、同時に美術品の保存・修理にかかる費用を調達する目的で作られました。色々な種類の会員ランクがあるのですが、私は普通の個人会員。年会費は80ユーロ程度。何とこの友の会のカードを持っているだけでプラド美術館の入館料が無料!さらに、通常は10ユーロする特別展にも入ることができますし、案内をもらった色々な美術のコースに参加することもできます。(これは別途お金がかかりますが。)

ギリシャ彫刻の他、ゴヤ、ベラスケス、エル・グレコ、ルーベンスといった巨匠の名画を観たいときに鑑賞できるというのはとても贅沢なことです。それだけでなく、美術館周辺の緑や建物内部のデザインの美しさにも目をひかれます。ちょっと歩き疲れたと思ったらカフェテリアでゆったりくつろぐこともできますし、本当に贅沢な時間の使い方ができる場所だと実感しています。また、普段は大きな声で騒ぐスペイン人や観光客も美術館では比較的静か(笑)ゆっくり読書をしたりボーッとしたりするのにも良いですよ。

ホアキン・ソロヤの代表作の一つ「浜辺の散歩」

ホアキン・ソロヤの代表作の一つ「浜辺の散歩」

実は、美術というのはゆっくり時間が取れる時に「今日は行こう!」と気合い(?)を入れて観るもののように感じていましたが、この会員証を手に入れてから、「1時間程時間が余ったから今日はベラスケス中心にもう一度観ようかな」と気軽に入れるようになりました。また、美術館で人の多さにあてられて疲れたりすると、普段なら「せっかくだから最後まで見なくちゃ」となるかも知れませんが、会員だと自分の集中力の持続する間だけ鑑賞して残りを別の日に回せるの
で、全ての作品を心行くまで楽しむことができるようになりました。これも大きな違いだと思います。

ちなみに、この友の会のカードでマドリッドの他の美術館も半額で入場できるようです。まだ試していませんが、これもお得ですね。

海に反射する光、布がはためく様子が写実的であり幻想的です。

海に反射する光、布がはためく様子が写実的であり幻想的です。

現在このプラド美術館では、スペインの現代美術の巨匠ホアキン・ソロヤ(Joaquín Sorolla)の特別展が開かれています。日本ではあまり馴染みがないかも知れませんが、マドリッド、パリ、シカゴ等多くの都市で様々な賞(フランスのレジオン・ドヌール勲章もあります)を受賞しており、その写実的でありながら柔らかなタッチは観る人に多幸感を与えます。古きよき時代、1900年代初めのエレガンス、幸せと悲しみの入り混じったようなポートレート、当時の価値観を反映した、その時代の人にとっての「現実」・・・人々の柔らかで自然な表情を見るうちに、「1世紀以上昔もこんなに人々は幸せそうにしていたんだ」と思わず実感させられる作品の数々です。また、後期の作品は巨大なものが多く、海の波がきらめく様子、牛を追い立てる人たち、潮風にはためく帆の動き・・・その存在感には圧倒的なものがあります。

「午後の太陽 (sol de la tarde)」

「午後の太陽 (sol de la tarde)」

行った日には会場は沢山の人で溢れかえっていました。世界各国の彼の作品がこれだけ一堂に会するのは滅多にないことなので、皆興奮を隠し切れない様子で見入っていました。本当に素晴らしい作品が多く、実験的なものも含めて彼独自の世界観を窺い知ることができたと思います。

私が特に気に入った作品は、子供を海に入れてあげようとする修道士の絵です。その子供が目が見えないので助けてあげる様子なのですが、そこに何とも言えない当時の貧しい生活、目の見えないことであり得る様々な障害、それでも普通の子供たちと一緒に海で泳ぎたいと頑張っている子供の様子に胸が締め付けられるような悲しみを感じるのです。でも同時に、回りではしゃぐ子供たち、明るい日差しと海の煌き、そういったものが混ざり合ってちょっとノスタルジックで美しい情景となっています。こういうものをゴヤが描くと「不気味さ」「奇妙さ」に焦点が当てられていることが多いのですが、ソロヤの作品はもっと画家の視点が温かい気がしました。

「裸婦像」

「裸婦像」

その他にも、1902年に描かれた「裸婦像」は女性が横たわるシーツのシルクの質感と光の具合が絶妙ですし、1896年の「帆を縫いながら(Cosiendo la Vela)」という絵はセザンヌの描く光に溢れた庭や人が談笑している様子を髣髴とさせます。「午後の太陽(Sol de la Tarde)」はその絵の大きさでも波のうねりでも迫力満点でした。ちなみに、この「裸婦像」は個人コレクション、「帆を縫いながら」はイタリアのヴェネチアにある美術館より借りたもの、さらに「午後の太陽」はニューヨークにあるHispanic Society of Americaという場所から借りたものです。世界各国のソロヤの作品がここまで集まったことには感動さえ覚えます。

「帆を縫いながら (cosiendo la vela)」

「帆を縫いながら (cosiendo la vela)」

日本でもこの画家は必ず人気が出ると思います。(もう出てるかしら?)この特別展は9月に終わりますが、マドリッドにはソロヤが晩年を過ごした家を改造したソロヤ美術館もあるので、マドリッドの3大美術館と呼ばれているプラド美術館、ティッセン美術館、ソフィア王妃芸術センターの他にもここに足を伸ばしてみるのはいかがでしょうか?

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